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原発20キロ圏内に生きる男

Text by Tomo Kosuga
[初出掲載:VICE.com日本版 2013年3月]

純白に透き通った頭髪は、日焼けした顔をよりいかつく見せる。垂れた目の奥には、映り込むいかなるものも逃すまいと黒光りした瞳がきつく構える。その反面、目尻に大きく刻まれた皺(しわ)からは、日頃から笑顔の絶えない人柄がうかがえた。「この町で生まれ育って53年。最期は富岡で死ぬしかねえべ」
2011年3月11日に起きた東日本大震災から、今日で2年が経つ。日本観測史上最大の大震災が呼び起こしたのは、誰もが予想だにしない事態だった。福島第一原子力発電所事故だ。この影響をじかに喰らった地域のひとつに、福島県双葉郡の富岡町がある。福島第一原発から20キロ圏内に位置し、今なお一定の放射線量を記録する富岡町。事故以来、町全域が立入禁止の警戒区域に指定された状態が続く。

その富岡町でたった独り、生きてきた男がいる。松村直登(まつむら なおと)さん、53歳。この地で代々、米農家を営んできた家系の5代目だ。「富岡町って小さいけど……」松村さんは語る。「自然には恵まれているわけよ。海があって川があって、山も近い。だから海で海水浴、川で魚釣り、山で山菜採り。今は、その全てができなくなったな」