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【VIDEO】The Art of Taboo: 任航(レン・ハン)

中国は北京在住の27歳、写真家・任航(Ren Hang)。彼が繰り広げるヌードフォトには、常に中国当局の監視がつきまとう。写真展の検閲、撮影中の逮捕劇、ウェブサイトの強制閉鎖……。それでも彼がヌード写真を続けるのは、ひとえに彼の下を訪れるモデル志望の若者たちが絶えないことも挙げられるかもしれない。
抑圧の中においても自己表現を求めて止まない中国の若者たちの姿、心境、そしてその証言を映像に収めるため、VICEは今回、中国は北京市にある任航の自宅を訪れた。そこに待ち受けていたのは、決して狭くはない室内を埋め尽くすフレッシュな北京女子たちの生き生きとした姿。かくして、任航による現実を超越した撮影が幕を開けた。
もちろん任航が語ってくれた話も今後、貴重な証言となるだろう。中国国内におけるヌード表現はいかなる状況にあるのか? それでも任航が続ける理由とは――? 透き通った眼差しの奥底に潜む、若き中国人の生き様に迫る。

The Art of Taboo: 任航(レン・ハン)

Text by Tomo Kosuga
[初出掲載:VICE.com日本版 2013年9月]

話は唐突だが、たとえばキミが中国を旅するとしよう。そしてうっかりしたことに、手元のiPhoneに〝日々のエクササイズのための参考動画〟を仕込み忘れてしまう……。これは相当、深刻な事態だ。ましてやそれが1ヵ月以上の長旅なら、もう最低だ。
Copyright © Ren Hang
なんたって中国でポルノは、この世に存在しちゃいけないモノ。手に入れようと思ったら、それこそイバラの道が待っている。本屋やコンビニを漁ってみても、肌色を含んだ本なんてファッション雑誌が関の山だ。レンタルビデオ屋を探してみたところで、そもそもコピー文化がお盛んなこの国で〝映画を借りる〟なんて概念はまるで浸透していない。
最後の頼みの綱は、恐らくネットだろう。しかし中国のネット検閲は現実以上に厳しい。政府が設けた60以上の条例に従って24時間体制でフィルタリングされており、日本のサイトはおろか、海外の〝大人向け〟サイトなんてアクセスした瞬間にエラーメッセージが表示される始末。自慢の「〈Xvideos.com〉クラウドブックマーク」も、この時ばかりはタイタニック号よろしくネットの大海の奥底に眠ってしまって手が届かない。
要するに、中国でポルノはタブーだ。それはもう、国を挙げて取り締まっているレベル。もちろん本屋で成人雑誌は売っていないし、AVを販売・レンタルするような業者もいない。
ここまでの経緯をよーく理解してもらった上で、是非とも紹介したい中国の写真家がいる。任航(レン・ハン)と名乗る彼は、ヌードを題材にした写真作品を製作する27歳の北京人だ。

詩人としても活躍するレン・ハン。周りの友達やネットで集めた若い子たちをモデルにしたヌード写真を撮っている。その作風はというと、例えばトマトケチャップをかけた〝ソーセージ〟をパンに挟んだり、その〝ソーセージ〟にフォークを突き立てたりといった、まるでテリー・リチャードソンを彷彿させる過激な局部ネタもあれば、まるで白昼夢でも観ているかのような素晴らしいロケーションにあり得ないシチュエーションでハダカが立ち並んだ幻想的なモノもあったりと様々。

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〝レン・ハン イリュージョン〟とも呼べる無限のアイデアには誰もが驚嘆するものかと思いきや、中国内では過激な側面ばかりが人々の関心を集める様子で、中国当局から幾度も検閲を受けてきた。個展の大半は公開前に検閲に引っかかり、撮影現場では逮捕劇が繰り返され、彼のウェブサイトはたびたび強制閉鎖されてきたといったように。
ここで1つの疑問が生じる。確かに中国でポルノはタブーだ。しかしレン・ハンの写真は明らかにポルノじゃない。ではなぜ、彼のヌードはそこまで中国当局を刺激するのだろうか。
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「人体艺术」という言葉がある。日本語に訳すと「人体芸術」。いわゆる人の裸体を〝アーティスティック〟に写したヌード写真のことだ。本屋はもちろん、ネット検索においても「人体艺术」は中国で重要なキーワード。つまり鼻の下を伸ばした男たちが、さも高尚な眼差しで人体芸術(という名の裸体)を眺めては「素晴らしい芸術だ!」と興奮しながら写真集を買っていくワケ。
そういったタテマエがちゃんとあれば、或る程度は目をつむってもらえる。というのも、世界一の人口数を誇る中国であらゆる犯罪者を捕まえようとしたところでとうてい叶うハズがないからだ。他にも例えば、あたかも富裕層向けに作られているかのような男性ファッション誌が実はゲイをターゲットにしていたりも。
とにかくこの国ではタテマエが欠かせない。それなしで真っ向から立ち向かおうものなら、時に国家を敵に回すことだってある。

アイ・ウェイウェイ氏による写真作品「1匹のトラ、8つの乳房(One Tiger, Eight Breasts)」2010年

今から遡ること2年前。中国の現代アーティスト、アイ・ウェイウェイ氏がわいせつ罪の疑いで当局に取り調べを受けた。コトの発端は、アイ氏とそのファン女性4人が裸体で写り込んだ写真作品だ(上の写真を参照)。
仲睦まじく笑顔で写り込んだ彼らに性的関連性はまるで感じられず、まず思い浮かぶのは「解放」とか「平和」といったキーワードだが、当局はこれを「ポルノ」と指摘。これにはアート愛好家たちも黙っていられず、まもなくウェブサイト〈艾未粉果 Ai Wei Fans’ Nudity —— Listen, Chinese Government: Nudity is NOT Pornography〉(中国政府よ、聞いて欲しい。ヌードはポルノじゃない)という抗議活動まで発生。その扱いの如何について、海を越えて世界で多くの議論を呼んだ。
アイ・ウェイウェイ氏やレン・ハンによる写真作品と「人体艺术」を比較してみよう。果たしてどちらが異性を刺激する性的表現だろうか、どちらが真の意味で「芸術」だろうか。一個人の目線から見たらごくごく簡単なこの線引きが、どうやら国レベルでは真逆らしい。
あるいは当局にとって「卑猥」かどうかはさほど重要でなく、得体の知れないモノは「脅威」であり「挑発的」に見えるのだろうか。
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実際、レン・ハンの写真は狂おしいほどに独立的かつ独創的、フレッシュで輝かしい。日々の生活を堅苦しく縛り付ける社会のルールがどうでも良く感じられるほどに美しい。レン・ハンの指揮によって繰り広げられる筋肉の即興パフォーマンスは、時に個と個の境を曖昧にすらしてしまう。
その末恐ろしい想像力は「脅威」かもしれない、「挑発的」かもしれない。しかし、決して反社会的なモノではない。むしろ中国の人々、ひいては世界の人々に「生きる歓び」を与えるような、希望に溢れる「可能性の花」だろう。
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得てしてタブーに挑むモノは、自ずと問題提起を孕んでいるものだ。そして、非力なものだ。といいつつも、潰すのが簡単そうに見えて、一度生まれた波はそうたやすく止まってくれない。レン・ハンの場合、シンクロの波は無限の可能性を秘めた中国の若者たちへと着実に伝染している。それは、彼の下にモデル志望者からの連絡が途絶えないことからも把握できる。任航と書いて「舟任せ」といった名のレン・ハンだが、その舟はもしかすると中国の若者を乗せるほど巨大な〝箱舟〟なのかもしれない。
中国のタブーを追いかけて私が出会ったのは、解放とは程遠い国で毒々しいほどに真実を解き放とうとする美しい若者たちの健気で真っ直ぐな姿だった。