〈前編〉北京の蟻と鼠は大成を夢見る


1993年、中国で国家プロジェクト『211工程』の実施が決定された。これは中国全土に100校もの重点大学を創り上げ、10年以上のロングスパンで優秀な人材を育成することを目標としたものだ。1990年時点ではわずか3.4%に過ぎなかった中国国内の大学進学率が、12年後の2002年には15%を達成。これは当初、2010年までの達成を目指していた指標である。以降、毎年右肩上がりの上昇を見せ、2007年には23.0%を記録。そして2013年、中国国内の大学卒業生は700万人に到達した。対して、日本国内における平成25年度の大卒者数が約60万人。つまり日本の約12倍近い新卒者が中国の就活市場に溢れていることに。
こうして若者の学歴が底上げされる一方、新たな問題として浮上してきたのが、蟻族のような高学歴ワーキングプアの出現だ。先述の700万人という大卒者に対し、2013年4月時点の就職内定率はわずか35%。前年と比べて12ポイントも低い割合だ。卒業証書さえあれば、希望する職と収入が手に入る時代は過ぎ去った。学歴が一般化し、就職氷河期と称されるいま、良い職に就くには「コネ」が必要という声も上がる。

希望する職や収入を手に入れるのが難しいのと同時に、家賃の高騰化も無視できない問題のひとつだ。中国社会科学院財経戦略研究院と社会科学文献出版社が発表した『住宅青書 中国住宅発展報告2013年〜2014年』によると、2013年9月までの中国国内家賃指数は45ヵ月連続での上昇となり、なかでも北京は55ヵ月連続の上昇を記録した。家賃が収入に占める割合が最も高い都市は北京となり、1家庭における1元当たりの可処分所得に対する家賃支出は0.54元。これは可処分所得の半数以上を家賃に充てていることになる。2013年12月、不動産売買や中古品売買、求人募集などを展開する中国のポータルサイト「赶集網」が「2013年賃貸住宅市場報告」を発表。それによると全国の平均家賃が月1,051元なのに対し、北京の家賃は月1,479元で、調査対象の36都市のうちで最も高額値となった。
大学の急増とそれに伴う大卒者の増大、そして経済発展とそれに伴う地価高騰ー。高学歴ワーキングプアが生まれた背景はかように複雑だ。この問題をさらに掘り下げていくと、学歴を持たない者に至ってはどの様な生活を送っているのか?という疑問に行き着く。実際、その答えともなる現象が中国でいま問題視されている。
2010年、アリ族に倣う形で「ネズミ族」と名付けられた人々の存在が取り沙汰された。もはや地上に住まいを得られなくなった低所得者たちは、北京の地下をねぐらに選んだのだ。これほどまでに熾烈な生存競争が繰り広げられる北京において、それでも若者がこの地に集まり、そして残り続けるのは何故なのだろうか? どんな夢を叶えようというのだろう? その暮らしぶりとは? 中国ワーキングプアの更なる実態を露わにすべく、我々は「ネズミ族」の調査を続行した。
後編に続く
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