原発20キロ圏内に生きる男

農林水産省によれば、警戒区域内での飼育管理はできないことから、家畜が餓死する前に安楽死処分という形をとらざるを得ないと国は判断、2011年5月12日に原子力災害対策本部長から福島県知事に対して処分指示が下りた。具体的には薬剤を使用し、鎮静、麻酔、筋弛緩の3段階で行なうこととしている。「殺さずに経過観察してたほうが、いざ人を経過観察する場合のいい実験材料になるかもしんねえ。ずっと生きてれば、なんともないかもしんねえ。だけど、たとえば数代目に産まれた子供が奇形児でものすごいことになるかもしんねえ。そしたらもう、ここさなんて、誰も人間帰すなって」

牧場でガイガーカウンターが示した値はおよそ毎時7マイクロ・シーベルト

第一印象は穏やかな松村さんだが、ひとたびその話に耳を傾けると、なにも知らなかった昨日までには二度と戻れないような感覚に襲われる。「東電で働いてる俺のいとこ、家も近くでな。原発が爆発した日、着替えを取りにそいつ戻ってきてな。俺に、逃げねえのか?って言うの。だから訊いたんだ、大丈夫だべ?って。そしたら、うん、2、3日で直るからって(返事してきた)。そんなウソつくか? 自分の家族は逃がして、(もうここには)いねえんだぞ。ひどいべ? そこまできたって、まだウソつくんだぞ。洗脳って分かる? 原子力発電所は絶対に爆発しない、放射能は絶対に漏れないって洗脳されてる。俺、東電の社員に聞いたんだよ。爆発した時、お前らどう思ったんだ?って。そしたらみんな口々に、ミサイル撃たっちゃ(撃たれた)って。原発はそもそも爆発しねえから、外から、たとえば北朝鮮からミサイル撃たっちゃ、って」