原発20キロ圏内に生きる男

松村さんの足はさらに牛舎へと歩を進める。「まだ少しニオイするな」そこで待ち構えていたのは、無残な姿になり果てた牛たち。「120頭は死んでる。もっとかもしんねえ。みんな死んで腐って、今は骨と角だけだよ。最初は、腐った死体にハエやウジがすごかった。町のなか、黙ってて聞こえるのはハエの音だけ。ブンブンブンブン。最初は臭すぎて、5分いたらニオイも染みついた。これは骨だけだから見られっけど、当時は生々しくて。生き地獄、地獄絵図。(この町で死んだのは)もう1000頭超えてっぺなあ」

牛舎内の様子。まだ微かに残る臭いが2年前の出来事を一瞬にして遡らせる。人が戻ることもままならない警戒区域内では、至るところで同じような光景が繰り広げられた

この地での任務は、動物たちの世話だけでない。政府による殺処分の動きから牛たちを守るのも重要なことだ。「やっとこいつら元気になったら、もう目障りだと言って(国は)殺しちまう。なんで殺さなきゃなんない? こいつらの仲間なんて、悲惨な想いで死んでいったんだぞ? 食肉として使うんなら構わない。命って、そんなもんだべ。理由もなくバタバタ殺して、なんで埋めるんだ? 特にこの中だからって。動物も人間も一緒だって。こんな無闇に人をバタバタ刺すかって」