大橋 仁、人類の明るい繁栄のため全財産をはたいて酒池肉林を撮り収める。

——〝細胞としてのニンゲンをツンツンしたくなった……って、どういう意味?

オレの〝知りたい欲求〟のコアな部分って、緻密に見たいってことなんだよね。そういう感じかな~じゃなくて、ハッキリ見たい。ピン合わせてビシッと! もうね、クマなく見たいのよ!! ゴシップ雑誌が異常に好きなお母様たちと変わらないかも。何色で、何センチの長さで、直径は何センチ、質感はコチコチ……みたいに、事細かに知りたい。それがこうなったから、こうなったんだ!っていうさ。
根っこの根っこまで掘り下げて、知りたいことを知ろうとするために行動を起こす。それが快感になる。そういうのが、ものすごく強い欲求として心の奥底にあるみたい。で、やっぱり自分がその現場に行って。肉のなかに入ってみて。体感もして、浴びる。そして撮る。ブツかる。その経験、体感と一緒に知りたいのよ!!

写真集『そこにすわろうとおもう』より

もうひとつ解剖学で言うと、ヘンな話があってさ。ウサン臭い話だから、言わなくてもいいんだけど……。

——ぜひぜひ!
ホント? じゃあ話すけど……オレのご先祖様を辿ると栃木県の寺に行き着くんだわ。そこは700年続いててさ。で、オレがすごく小さな頃から聞いてた話なんだけど、うちのご先祖様がそこの開祖で、しかも最初は医者だったらしくてね。中野智玄(ちげん)っていうさ。
その当時は後醍醐天皇の時代で、天皇の娘が奇病に罹ったらしくて。それで日本中から腕の良い医者を集めて、治療に当たらせたと。日本全国から集まったなか、うちの智玄だけがそれを治せたらしいんだわ。それで、栃木県の広い土地をもらって、そのあと出家して坊主になった。
でも智玄坊主は探求心の欲望が止まらなかったみたいで。出家したあとも周囲の人を医療したりしていくんだけど、ついに思い余って、自分の娘を生体解剖しちゃったのよ。生きてる娘を、しかも本堂で。700年前だから、麻酔もない状態。

——………………………………マジ?

マジ。知りたくて知りたくて。人の子をかっさらって殺しちゃマズいけど、自分のだったらイイだろうって。きっと彼なりのルールがあったんだろうね。彼は殺したくて殺したんじゃなくて、医学として、学びとしてやったんだと思うのよ。1人の命を奪うのはすごく非道なことだけど、そこまでして知りたかった。
そんな怪しい寺と坊主も、自分のルーツのひとつで。ふと自分の血のルーツを考えると、そのキチガイジジイを思い出すことがあるんだよ。その血がオレにイタズラしてるような。それくらい、知りたい欲求がものすごいからさ。