深瀬昌久『あるばむ』(「アサヒカメラ」1973年9月号、撮影メモ)

 北海道中川郡美深町東一条北二丁目二十一番地「深瀬写真館」の長男、昌久三十九歳、父助造六十一歳、母みつゑ六十二歳、今夏七月、家業を継いでいる次男了暉三十一歳の運転で、親子四人水入らず、網走から知床半島をドライブしました。

 美深に二泊、網走に二泊、知床のウトロに一泊、これは、その平凡な記録ですが、今さらながら父も母も年老いたと思うのでした。

 否応なしに年月がたち、老人、若者、子供、私、いつか必ず死んでしまうこの世とやらは、私にとって、一冊の古びた「あるばむ」にはられた記念写真のようにも思えてきます。今この原稿を団地のわが家の食卓で、ピールのみながら書いてますが、私の二匹の愛猫「ヘボ」と「カボ」が、オカズの子持ちガレイの煮魚がほしくて、かたわらをうろうろしてます。幸せ風景です。凄惨、陰惨、暴力、血、地獄、失墜、糞まみれ……ありとある悲惨が、幸せと背中合わせに私のなかで共存し、ひどく疲れながらシラケています。

 胃の調子がいつも悪くて毎食前、漢方薬「柴胡桂枝湯」をのみ、そのよくなるぶんアルコールものみ、時にのみすぎて血圧が高くなり、自ら怨恨を製造しては、共食いしてきた愚かな茶番劇の、一日も早く終了せんことを切に祈るものです。今回は二本立て上映。私の学生時代(十八歳から二十二歳)、今から約二十年前のネガを引っくり返して、上段に並べてみました。